※attention※
及川さんが大学生モブにぶち犯されています。ごめんなさい。


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あの人は笑っていた。
まるですべてを見透かしているかのように、笑っていた。


はじまりの日


部活のあと誰もいなくなった体育館で一人自主練をした日のことだった。
ボールを片付けようと、体育館の裏にある倉庫の扉をあけたとき、何かの音が聞こえた。
最初に耳に届いたのは苦しそうなうめき声だった。
驚いて倉庫の奥に目をやる。
誰もいないはずのそこには、うごめく二つの影があった。
扉から入る光に薄ぼんやりと照らされて、徐々に鮮明になるその影を、俺は馬鹿みたいにぽかんと見つめていた。

そこにいたのは大学生のOBだった。
最近頻繁に指導にやってくる男だった。彼はよく口汚く選手を罵ったから、俺はその男が嫌いだった。
男はこちらに気がつく様子もなく、薄暗闇の中で一心不乱に腰を振っていた。
何をしているんだろう。そう思ってもう一歩覗き込んだ瞬間に、全身に鳥肌が立った。
暗い倉庫の跳び箱に手をついて、羞恥のかけらもなく男に腰を突き出して、乱れた呼吸を繰り返しているその人は、他でもない、

及川さんだった。

青いジャージのズボンは及川さんの足下にたぐまって、半透明の白い液体で汚れている。しなやかな長い脚は露わにされ、乱暴に揺さぶられるたびにがくがくと震えていた
。 跳び箱に凭れ掛かった及川さんは、男に身を委ねるように薄く目を閉じている。
白い頬が汗ばみ、赤く色づいていく。薄く開かれた口から、真っ赤な舌と、整ったきれいな歯が見えた。
及川さんが声を上げる。
あ、ああ、いい。
いつもよりも上擦って掠れているその声は、絡み付くような甘ったるさを持って耳の奥にこびり付いた。
ああ、いい、もっと。

それが俺の知っている及川さんではないと気がついたとき、目の前の景色がぐらりと眩んだ。
心臓の音が自分の中で響くほど強く脈打つ。
頭から足の先まで、血液が沸騰したように熱かった。
走ってもいないのに息が苦しい。
大きく息を吸いたいのに、喉がきつく締まって、小さく喘いだその時だった。

及川さんがうっすらと目を開けた。
薄いまぶたを持ち上げて、及川さんは、俺を見た。
それはぞっとするほど空虚な眼差しだった。
揺さぶられ続け、じっとりと熱を帯びているのに光がない。
きれいな薄茶色の瞳はどろりとした快楽だけを満々と湛えて、ただただその表面に俺を映す。
空恐ろしかった。
身じろぎもできなかった。
そうして視線を外すこともできずに立ち竦んだ俺を見つめて、

及川さんは、笑っていた。

薄暗い部屋の中で、唇を歪ませて、及川さんは笑った。
弧を描く赤い唇が意思を持って、スローモーションのように動きはじめる。

『と、び、』

それが言葉になるよりも早く、俺は体育倉庫から逃げ出していた。

校舎を駆け抜けて、校庭を通り過ぎて、それでも俺は走り続けた。
どんな練習の時よりも早く走って、走って、走り続けた。
一秒でも早く、一センチでも遠く、あの倉庫から離れたかった。
青信号になるのを待たずに、横断歩道を駆け出す。近所の顔見知りのおばさんが俺を見て何か言っているのが分かったけれど、それを振り切るように走った。

汗の滲む真っ白な脚。ジャージを汚す白い液体。紅潮する頬。息継ぎの間に上がる嬌声。
生々しい記憶が目の前に現れては消える。
及川さんに憧れていた。セッターとしての才能に。絶えまなく努力する誠実さに。早く及川さんに近づけるように。及川さんのようになれるように。
その感情がただの憧憬でないことに気がついたのはいつだっただろうか。

心臓がこんなにもドクドクと鳴る理由を誤摩化すために走り続けた。
それでも、本当は気づいていた。


俺は、及川さんに、欲情していた。